EVブームの始まり──「理想」が先行した時代
2010年代後半から2020年代初頭にかけて、世界は一気にEV(電気自動車)へと傾いた。
- 気候変動対策(脱炭素)
- 欧州を中心とした環境規制の強化
- テスラの急成長による成功体験
これらが重なり、
「EVこそが自動車の最終形」
という空気が形成された。
欧州ではガソリン車販売禁止の方針が打ち出され、米国では補助金政策、中国では国家主導でEV産業が育成された。
この時期、多くのメーカーがEV一本足打法へと舵を切った。
現実に直面──EVの構造的な課題
しかし、普及が進むにつれて現実的な問題が明確になっていく。
バッテリー問題
- 劣化による価値低下
- 交換コストが高額
- 中古市場が成立しにくい
利便性の問題
- 充電時間の長さ
- 充電インフラ不足
- 寒冷地・地方での使いにくさ
環境面の逆説
- 発電が化石燃料依存の場合、CO₂削減効果が限定的
- 車重増加によるタイヤ摩耗・環境負荷
結果として、
「理想ほど万能ではない」
という認識が広がった。
GM・欧米メーカーの戦略転換
象徴的なのがGM(ゼネラル・モーターズ)である。
- EV投資による巨額赤字
- 補助金終了でEV販売が急減
- 利益率の高いピックアップ・SUVへ回帰
赤字にもかかわらず株価が上昇したのは、
無理なEV路線からの撤退=現実的判断
が投資家に評価されたためだ。
フォードのように「HV・EV・エンジン」のマルチ戦略を取った企業との差が浮き彫りになった。
テスラとBYD──EV時代の異端と現実主義
テスラ
- ソフトウェア主導の車づくり
- OTA(遠隔アップデート)で後から性能改善
- 高価格帯・先進技術志向
👉 EVを“ガジェット”として成立させた存在
BYD
- バッテリー内製
- 低価格・大量生産
- 国家支援を背景にしたコスト競争力
👉 EVを“実用品”として押し広げる存在
ただし、どちらも「万能」ではない。
トヨタの一貫した姿勢──なぜ慎重だったのか
トヨタは一貫してこう主張してきた。
「地域・用途によって最適解は違う」
その結果、
- HV(ハイブリッド)を主軸
- PHEVでEV要素を補完
- EV技術・電池技術も内製で保持
EVを否定せず、EV一本にも賭けないという姿勢を貫いた。
この戦略により、
- 寒冷地
- 田舎
- 中古市場
でも成立する車を提供し続けている。
全固体電池が出たら何が変わるのか
全固体電池が実用化すれば、
- 軽量化
- 高安全性
- 急速充電
- 長寿命
といったEV最大の弱点が改善される可能性がある。
ただし、
- 量産
- コスト
- インフラ
という壁は依然として高い。
一気に世界がEVへ転換する魔法の鍵ではないというのが現実的な見方だ。
現在の到達点──EVは「万能解」ではない
現在の世界は、次の認識に近づいている。
- EVは都市部・先進層向け
- HV・PHEVは世界の多数派向け
- エンジン車は当面消えない
つまり、
EVは選択肢の一つに戻った
という段階である。
結論
EVの歴史は、
- 理想の過信
- 現実との衝突
- 再調整
というプロセスを辿っている。
その中で、
- テスラは「最先端」
- BYDは「価格」
- トヨタは「実用性」
という立ち位置が明確になった。
自動車は思想よりも生活に近い道具である。
この事実を最も深く理解しているのが、トヨタだと言えるだろう。


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