――EV戦略の転換と“現実路線”への回帰
米フォード・モーターが発表した2025年10〜12月期決算は、111億ドル(約1.7兆円)の最終赤字となった。通年でも82億ドルの赤字と、金融危機以降で最大規模の損失を計上した。
一体なぜここまでの赤字になったのか。そしてフォードは今後どこへ向かうのか。
本質は「EV失速」ではなく、EVを取り巻く前提条件の崩壊にある。
なぜフォードは巨額赤字に陥ったのか
EV補助金廃止という前提崩れ
米国ではこれまで、EV購入に最大7500ドルの税額控除があった。排ガス規制も強化され、EV投資は“政策に支えられた成長産業”だった。
しかしトランプ政権がEV税額控除を廃止し、排ガス規制も緩和。
EV需要の伸びは鈍化し、投資の前提が崩れた。
フォードはこの環境変化を受け、EV開発計画の見直しを迫られた。
EV開発中止による巨額減損
フォードは大型EVピックアップの開発中止を決定。
さらにEV工場をガソリン車やHV向けへ転換、韓国SKオンとの電池合弁解消などを実施した。
この結果、10〜12月期だけで155億ドルの特別費用を計上。
つまり、
「将来の成長投資」として計上していたEV関連資産を、一気に損失処理した
ということだ。
EV事業は構造的に赤字
フォードのEV事業は約4年間赤字が続き、累計赤字は165億ドル。
2026年も年間40〜45億ドルの赤字見通しだ。
EVはまだ、
- 電池コストが高い
- 価格競争が激しい
- 量産効果が十分出ていない
という段階にある。
テスラのようなEV専業企業と違い、フォードは既存エンジン工場やディーラー網を抱える伝統的メーカーだ。構造的な固定費の重さが収益を圧迫している。
背景にある「政策の逆回転」
今回の赤字は、フォード固有の問題ではない。
GMやステランティスを含めた「ビッグ3」のEV関連損失は合計8兆円超に達する。
米欧でEV推進政策が見直され、
- 米国:補助金廃止・規制緩和
- EU:エンジン車禁止目標の撤回
という流れが起きた。
EVは政策依存産業だった側面が強く、前提が変われば収益構造も揺らぐ。
それでも脱炭素は終わらない
重要なのは、世界的な脱炭素の潮流自体は止まっていないことだ。
フォードは現在、「全EV化」ではなく、地域別・用途別の分散戦略へシフトしつつある。
フォードが取りそうな今後の戦略
米国:高付加価値ガソリン車+HV
フォードのブランド価値は、
- F-150
- マスタング
- ブロンコ
といった“感情資産”にある。
完全EVよりも、
- パワーを維持したHV
- 収益性の高いガソリン車
で利益を確保する可能性が高い。
実際、F-150のハイブリッドモデル「PowerBoost」は牽引力や発電機能を維持しながら電動化を実現している。
欧州:規制対応型EV拡大
欧州では依然として環境規制が厳しい。
仏ルノーとの提携などを活用し、EV展開を続けるだろう。
中国との提携模索
報道では、フォードが吉利や小米とEV生産で交渉しているとされる。
背景にあるのは中国の圧倒的コスト競争力だ。
皮肉なことに、米国のEV政策は「中国依存からの脱却」を目的としていた。しかしコスト面で劣勢となり、結果的に中国との接近を招いている。
フォードはどうなるのか?
フォードはテスラ型の「EV専業企業」にはならないだろう。
むしろ、
- 米国で稼ぐ(ガソリン・HV)
- 欧州で規制対応
- 中国技術でコスト補完
というポートフォリオ型戦略に移る可能性が高い。
これはトヨタに近い現実路線だ。
最大のリスク
最大のリスクは“中途半端”になることだ。
- EVで勝てない
- ガソリン依存で規制に縛られる
- 中国とも十分に組めない
三正面作戦は体力勝負になる。
本質は「EVの失敗」ではない
今回の赤字は、EVの終焉を意味するものではない。
本質は、
- EVはまだ収益モデルが未完成
- 政策依存のリスクが顕在化
- 中国のコスト優位が想定以上に強い
という構造問題にある。
フォードは今、理想論ではなく現実路線へ舵を切った。
この戦略転換が成功すれば再浮上は可能だが、失敗すれば競争力を失う。
2020年代後半、自動車産業は「技術革新」よりも「戦略の巧拙」が勝敗を分ける時代に入った。
フォードの選択は、その試金石となる。


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