任天堂株はなぜ売られたのか

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――AI時代でも揺るがない「体験の企業」という本質

好決算にもかかわらず株価は下落

任天堂は2月3日の決算で、Nintendo Switch 2の世界販売台数が1700万台を突破し、「歴代最速ペース」という記録を打ち立てた。それにもかかわらず、株価は決算発表後に急落し、直近半年で約3割下落している。

一見すると、この動きは業績と整合しない。では、なぜ市場は任天堂株を売ったのか。


市場が恐れているのは「業績」ではなく「物語」

今回の株価下落の背景にあるのは、メモリ価格高騰と並んで語られる「AIによるゲーム生成」への懸念だ。Googleが発表した生成AIモデル「Genie 3」によって、「誰でも3Dゲームを作れる時代が来るのではないか」という議論が広がった。

これは、AdobeやFigmaが生成AIの台頭によって評価を大きく下げた流れと重ねられ、「創造の民主化=既存プレイヤーの価値低下」という物語が任天堂にも当てはめられた結果だと言える。

しかし、この見方はゲームビジネスの本質を十分に捉えているとは言い難い。


ゲーム産業は「ハード普及ありき」のビジネス

ゲーム事業の鉄則は、まずハードを普及させることにある。初期段階では利益を度外視してでも台数を伸ばし、その後にソフトやIP展開で回収するのが業界の常道だ。

すでに1700万台以上を出荷しているSwitch 2は、ビジネスモデル上「勝ちパターン」に入りつつある段階であり、過度な不安が先行している印象は否めない。


AIは「ゲームを作れる」ようにしても「面白さ」は作れない

Genie 3のような生成AIは、確かに3D空間やキャラクターを生成できる。しかし現状では、

  • 状態管理やゲームロジックが弱い
  • 毎回生成が必要で安定性に欠ける
  • ゲームエンジンや編集ツールとの統合が不十分

といった制約が多く、実用的なゲーム開発の代替には程遠い。

さらに重要なのは、「作れること」と「面白いこと」はまったく別だという点だ。過去にもRPG制作ツールやゲームエンジンの普及により「誰でもゲームが作れる時代」は訪れたが、名作が量産されたわけではない。

面白さは、難易度の調整、テンポ、操作感、余白といった数値化できない編集力によって生まれる。ここはAIが最も苦手とする領域だ。


任天堂は「ゲーム会社」をすでに超えている

任天堂の競争優位性は、単なるゲームハードやソフトの販売にない。

  • ハードとソフトを一体で設計する体験設計力
  • マリオやゼルダに代表されるIPの蓄積
  • 映画、テーマパーク、グッズへ横断展開できる世界観

任天堂が提供しているのは「コンテンツ」ではなく、信頼された体験そのものだ。この価値は、生成AIによる供給過多の影響を受けにくい。


それでも任天堂が油断できない一点

ただし、任天堂にも明確なリスクは存在する。それはAIではなく、

「面白さを最終的に決める編集力が、人の暗黙知に依存していること」

だ。名作を100点に引き上げる最後の感覚はマニュアル化できず、世代交代がうまくいかなければ、静かに平均点が下がる可能性がある。成功体験が続くほど、このリスクは見えにくくなる。


株価下落は構造変化ではなく心理的調整

今回の任天堂株の下落は、ビジネスモデルの崩壊を示すものではない。AIという新しい技術に対する不安が、ゲームという産業の本質を飛び越えて先行した結果だろう。

AIは任天堂を代替する存在ではなく、むしろ制作効率を高め、人間が「面白さ」に集中するための道具になりうる。

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